TAX ライブラリー(2015.06)

退職金と所得税

−退職所得と給与所得の違い−

□ 所得税法は、所得の性質、発生の形態によって担税力が異なるという前提により、10種類に区分しています。公平課税・公平負担を図るため所得の種類に応じて計算方法や課税方法が異なっています。10種類の所得は、一時所得、及び、雑所得を除くと、資産性所得、資産勤労結合所得、勤労所得に大別されます。
(1)資産性所得
 利子所得、配当所得、不動産所得、山林所得、譲渡所得であり、これらは、資産の運用などから生じます。担税力が最も高いと考えられるため、所得税を重く課するのが基本ですが、実際には、様々な租税特別措置によって優遇されています。
※山林所得は、資産勤労結合所得に含めて考えることもあります。
(2)資産勤労結合所得
 事業者の労働による所得と資産の運用による所得とが融合するもので、事業所得が該当します。担税力は、資産性所得より小さいものの、勤労所得より大きいとされます。これについても、租税特別措置によって優遇制度があります。
(3)勤労所得
 給与所得、及び、退職所得です。担税力が最も低いものの、把握率が資産性所得、及び、資産勤労結合所得よりも高く、租税特別措置で優遇されることが少ないため、実質的には最も重く課されます。
※なお、雑所得の中には勤労所得と考えられるものも存在します。

□ サラリーマンが会社から支給される勤労所得には、賃金、賞与、退職金があります。
(1)この内、賃金と賞与は給与所得に、退職金は退職所得に分類されます。一般的に、賃金は毎月、賞与は支給時期(春・秋、年1〜2回)が決められています。
(2)退職金は退職時に支給されるもので、老後の生活保障、及び、長期勤務に対する功労報償的な性質があり、課せられる税金は優遇されます。

□ 退職所得の計算方法〜給与所得との違い
 基本的には、「収入」から「経費」を差し引いて、所得を算出します。しかし、退職所得の場合、勤続年数に応じて退職所得控除額が大きくなり、また、勤続年数が6年以上の役員については、所得が小さくなるように1/2を乗じて算出します。

退職所得=(退職金の額−退職所得控除額)×1/2
給与所得=(賃金・賞与の額−給与所得控除額)

 なお、退職所得を計算する際の退職所得控除額は、次にように決められています。

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数(80万円に満たない場合には、80万円)
20年超 70万円×(勤続年数−20年)+800万円

※障害者になったことが直接の原因で退職した場合、前年以前に退職所得を受け取ったことがあるとき、又は、同一年中に2か所以上から退職金を受け取った場合は、控除額の計算が異なることがあります。

□ 退職所得の計算例
 例えば、勤続年数が30年、退職金が2,300万円のケースでは、次のとおりです。

退職所得控除額=800万円+70万円×10年=1,500万円
退職所得=(2,300円−1,500万円)×1/2=400万円

 課税対象は400万円ですから、所得税は約38万円です。
※なお、「退職所得の受給に関する申告書」の提出がなかった場合は、退職金の支払金額の20.42%が源泉徴収されてしまうので注意が必要です。

□ 住民税
 退職金には所得税のほか住民税が課せられます。計算方法は所得税と同じです。

※昨年、総務省が高齢者の人口統計を発表しました(人口推計平成26年9月15日現在)。それによると、我が国の高齢者人口は3296万人、総人口に占める割合は25.9%と共に過去最高となっており、8人に1人が75歳以上となりました。長期勤務に対する功労報償である「退職金」に課せられる税金について、正確に理解の上、今後のライフプランを立てて頂きたいと思います。