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連載“改正民法”

−第19回「賃貸借契約」

□ 2020(令和2)年4月1日より、改正民法が施行されました(「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」、平成29年5月26日成立、同年6月2日公布)。
 現在の民法(債権関係)は1896(明治29)年に制定されました。債権法は取引社会を支える法的な基礎であるにも関わらず、約120年もの間、ほとんど改正がなされていません。
 今回の改正は、社会・経済の変化への対応を図り、国民一般に分かり易いものとするために、実務で通用している基本的なルールを明文化したものです。
 今回は「賃貸借契約」について、解説します。

□ 重要ポイント
1.賃貸借契約期間が20年から50年に延長(改正民法第604条)
2.賃貸人の修繕義務の範囲と賃借人の修繕権の明文化(改正民法第606条、第607条の2)
3.賃借人の原状回復義務の明確化(改正民法第621条)
4.敷金の定義、及び、敷金返還債務の発生要件の明文化(改正民法第622条の2)。

□ 解 説
 賃貸借契約とは、当事者の一方がある物の使用および収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと、及び、引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約束することによって、その効力を生ずる契約のことです(改正民法第601条)。物件を貸す人(賃貸借の目的物を使用収益させる方)を「貸主」「賃貸人」といい、物件を借りる人(目的物を使用収益して賃料を支払う方)を「借主」「賃借人」と言います。また、土地の賃借人を「借地人」、建物の賃借人を「借家人」と呼ぶことがあります。 例えば、賃料を支払い、店舗やマンションを借りたり、土地を借りたりする契約です。

1.ゴルフ場の敷地の賃貸借など、建物を所有する目的以外の土地賃貸借においては、従来より20年を超える期間の賃貸借契約の必要性があったため伸長されたものです(改正民法第604条)。しかし、借地借家法上は、賃貸期間の上限が撤廃されており(借地借家法第29条第2項、旧民法第604条第1項)、建物を所有する目的で締結された土地賃貸借契約にも借地借家法が適用されますので、期間の上限はありません(借地借家法第2条1号、同法第3条但書)。

2.次のとおりです。
(1)賃借人の責任で修繕が必要になった場合には賃貸人は修繕義務を負いません。例えば、急迫の事情があり、修繕が必要なことを賃貸人に通知、または、賃貸人が修繕が必要なことを知ってから、相当期間が経過しても賃貸人が修繕をしない場合には、賃借人は自ら修繕することができます。
(2)賃借人は、賃貸人に対して修繕費用を支出した場合に、費用の種類に応じて費用の返還を求めることができます。
 @必要費 雨漏りの修繕など、賃貸物を使用収益するのに適した状態にするために修繕した費用
 A有益費 トイレにウォシュレットを付けるなど、賃貸物の価値を増加させる費用

3.賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負います。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、義務を負いません。つまり、敷金から差し引くことができる原状回復費用は、賃借人に責任がある損傷に限ることになります(改正民法第621条但書)。なお、この規定は任意規定ですから、当事者間の特約は有効です。

4.賃貸借契約が終了して、賃貸人が不動産の明渡しを受けたとき、賃貸人は、敷金から賃借人の債務を差し引いた額を賃借人に返還すべきことが明文化されました。なお、敷引き契約(:敷金からあらかじめ契約書で定められた額を差し引く契約)は、消費者契約法第10条に違反する場合は別として、改正民法においても一律に無効となるわけではありません。


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