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連載“改正民法”

−第15回「相殺禁止」

□ 2020(令和2)年4月1日より、改正民法が施行されました(「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」、平成29年5月26日成立、同年6月2日公布)。
 現在の民法(債権関係)は1896(明治29)年に制定されました。債権法は取引社会を支える法的な基礎であるにも関わらず、約120年もの間、ほとんど改正がなされていません。
 今回の改正は、社会・経済の変化への対応を図り、国民一般に分かり易いものとするために、実務で通用している基本的なルールを明文化したものです。
 今回は「相殺禁止」について、解説します。

□ 重要ポイント
1.不法行為等により生じた債権による相殺の禁止(改正民法第509条)
2.差押えを受けた債権による相殺の禁止(改正民法第511条)

□ 解 説
1.不法行為等により生じた債権による相殺の禁止
 相殺とは、自働債権(:自分が相手に対して持っている債権)をもって、受働債権(相手が自分に対して持っている債権)を、同額分につき差し引くものです。相手に対して通知することのみで効力が発生するため、旧民法では、不法行為を受働債権として相殺することは一律禁止されていました。その趣旨は、@違法行為の未然防止(:金銭を払ってもらえないことへの報復行為の防止)と、A被害者救済(:不法行為の被害者には現実に金銭賠償を受けさせる必要性があること)という政策的な配慮です。
 しかし、@単なる故意や過失による不法行為のケースでは該当しないことが多く、また、A債務不履行(ex:安全配慮義務違反等)の被害者も場合によっては現実の弁済を受けさせるべき場合があり、必ずしも不法行為の被害者に限って現実の弁済を受けさせる必要性がないのではないか、といった問題が従来より指摘されていました。
 そこで、債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けた場合は別として、相殺禁止の対象となる不法行為債権を次の二つのケースに限定し、それ以外は相殺ができることになりました。
 @ 加害者の悪意による不法行為に基づく損害賠償(改正民法第509条1号)
 A 生命・身体を侵害する不法行為に基づく損害賠償(改正民法第509条2号)

2.差押えを受けた債権による相殺の禁止
 差押を受けた債権の第三債務者は、差押後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできませんが、差押前に取得した債権による相殺をもって対抗することができることとなりました。前段は旧民法511条と同様です。後段は、規範として成立していた判例(最高裁S45.6.24「無制限説」)を明文化したものです(改正民法第511条第2項)。
 また、差押前の原因に基づいて差押後に自働債権を取得した場合も、破産法第72条第2項2号の相殺に関する規定にならい、原則として差押債権者に対抗できるものとしました。但し、差押後に他人の債権を取得した場合は認められません(改正民法第511条第2項但書)。


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