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連載“改正民法”

−第12回「詐害行為取消権」

□ 2020(令和2)年4月1日より、改正民法が施行されます(「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」、平成29年5月26日成立、同年6月2日公布)。
 現在の民法(債権関係)は1896(明治29)年に制定されました。債権法は取引社会を支える法的な基礎であるにも関わらず、約120年もの間、ほとんど改正がなされていません。
 今回の改正は、社会・経済の変化への対応を図り、国民一般に分かり易いものとするために、実務で通用している基本的なルールを明文化したものです。
 今回は「詐害行為取消権」について、解説します。

□ 重要ポイント
1.「詐害行為」概念の類型化(改正民法424条の2〜4)

2.転得者に対する行使要件の明文化(改正民法424条の5第1号)

3.価額償還の明文化(改正民法424条の6第2項)

□ 解 説
 詐害行為取消権とは、債務者が債権者を害することを知りながら行った行為の取消を裁判所に請求し、債務者の財産から逸出した物や権利を債務者の元に回復する権利のことです。
 旧民法では、詐害行為取消権に関する条文は3つ(424条〜426条)しかなく、その内容は、判例に委ねられていました。
 しかし,2004(平成16)年に制定された破産法における否認規定に比べ、詐害行為に関する判例の方が成立要件が緩やかなことが多く、バランスを欠いていました。そこで、改正法では破産法の規定を参考に整理されました。

1.「詐害行為」概念の類型化
(1) 相当の価格を得てした財産の処分行為  従来、判例は不動産を売却し金銭に換えることを、原則として詐害行為に該当するとしていました。相当価格による売却等であるにもかかわらず詐害行為取消に該当する可能性があれば、取引の安全は低下します。そのため、改正民法では、破産法161条1項の規定にならい、詐害行為取消権の成立範囲を次のとおり限定しました(改正民法424条の2)。
 @当該行為が、不動産の売却やその他の財産の種類の変更であって、債務者が隠匿、無償の供与等の債権者を害する処分をする恐れを現に生じさせるものであること。
 A債務者が、当該行為当時、対価として得た金銭等を隠匿処分する意思を有していたこと。
 B当該行為によって利益を受けた受益者が、当該行為の当時、債務者が隠匿処分の意思を有していたことを知っていたこと。
(2)偏頗行為の類型化−特定の債権者に対する担保供与・債務消滅行為
 @本旨弁済 本旨弁済などの義務に従った担保提供・債務消滅行為について、次の要件を満たす場合には詐害行為取消権の対象とこととしました(改正民法424条の3第1項)。
  イ.弁済等が債務者が支払い不能の時に行われたこと。
  ロ.弁済等が、債務者と受益者が通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたこと。
 A義務に属しない場合 期限前弁済のように債務者の行った担保提供・債務消滅行為の時期が債務者の義務に属しない行為や、代物弁済や任意の担保提供のように債務者の義務に属しない場合は、次の要件を満たす場合に詐害行為取消請求を行使できることとしました(改正民法424条の3第2項)。
  イ.弁済等が、債務者が支払い不能になる前30日以内に行われたこと
  ロ.弁済等が、債務者と受益者が通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたこと
(3)過大な代物弁済等  代物弁済など、債務者がした債務の消滅に関する行為であって受益者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるものについては、改正民法424条の詐害行為取消権の一般的な要件を満たす場合には、消滅した債務の額を超過する部分について、詐害行為取消請求をすることができるとされています(改正民法424条の4)。

2.転得者に対する行使要件の明文化
・受益者に移転した財産がさらに転得者に移転した場合であっても、次の場合には、転得者に対しても詐害行為取消権を行使することができるとしました(改正民法424条の5第1号)。
 @受益者に対する詐害行為取消請求が認められること。
 A転得者が、転得の時点で債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。

3.価額償還の明文化
・改正民法では、受益者又は転得者に移転した逸出財産の回復又は当該財産の返還が困難な場合に、債権者は価額による償還を請求をすることができるとし従来の判例解釈を明文化しました(改正民法424条の6第2項)。


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