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連載“改正民法”

−第11回「債権者代位権」

□ 2020(令和2)年4月1日より、改正民法が施行されます(「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」、平成29年5月26日成立、同年6月2日公布)。
 現在の民法(債権関係)は1896(明治29)年に制定されました。債権法は取引社会を支える法的な基礎であるにも関わらず、約120年もの間、ほとんど改正がなされていません。
 今回の改正は、社会・経済の変化への対応を図り、国民一般に分かり易いものとするために、実務で通用している基本的なルールを明文化したものです。
 今回は「債権者代位権」について、解説します。

□ 重要ポイント
1.自然債務などの強制執行により実現できない債権は、被代位権利にはならない(改正民法第423条第3項)

2.被代位権利の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度でしか行使できない(改正民法第423条の2)

3.債権者は自身への直接の金銭の支払または動産の引渡しを請求することができ、第三債務者が支払または引渡しをしたときは、被代位権利は消滅する(改正民法第423条の3)

4.第三債務者は、債務者に対する抗弁を債権者にも主張できる(改正民法第423条の4)

5.登記・登録の請求権を保全するための債権者代位権も認められる(改正民法第423条の7)

6.債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、被代位権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。この場合においては、相手方も、被代位権利について、債務者に対して履行をすることを妨げられない(改正民法第423条の5)

□ 解 説
・債権者代位権とは、債権者が、@自己の債権を保全するため、A債務者に属する第三債務者に対する権利を、B債務者に代わり行使する権利のことです。旧民法では423条の一つしかありませんでしたが、改正民法では、判例法理や解釈上異論のない内容が盛り込まれています。

1.自然債務とは、裁判上は請求できないものの、任意に履行された場合、それによって得られた利益を保持でき返還する必要がない債務のことです。債務者が第三債務者に対して自然債務である債権を有するとしても、そもそも債務者は第三債務者に対して請求することができないので、債権者がこれを代位して第三債務者に請求することはできません。今回の改正により明文化されました。

2.債権者代位権は、債権者の債務者に対する債権の保全のための制度です。したがって、保全に必要な限度でのみ行使が認められます。そこで、被代位権利が金銭債権のように可分であるときは、自己の債権額の限度でしか被代位権利を行使することができません。

3.債権者代位権は、特定の債権者のみが優先して債権回収をすることを目的とはしていません。債務者の責任財産を保全し、結果として債権者の債権回収を図ることが本来の目的です。したがって、従来より判例は、債権者代位権の行使によって、債権者は第三債務者に対し直接自己に金銭の支払いや動産を引き渡すよう求めることができるとしています。改正民法はこれを明文化したものです。
 なお、第三債務者から直接金銭を受領した債権者は、その金銭を債務者に返還する債務を負うことになりますが、旧民法下では、この返還債務を被保全債権と相殺することが認められていました。改正民法下でも同様です。

4.第三債務者にとって、債務者から被代位権利の請求を受けた場合に債務者に主張できた抗弁が、債権者代位権の行使によって債権者から被代位権利の請求を受けた場合に主張できなくなってしまうのは公平性を欠きます。従来判例は、第三債務者が債務者に対して主張できる抗弁について、債権者代位権を行使している債権者にも主張することができるとしていました。改正民法はこれを明文化しました。

5.債権者代位権は、本来、被保全債権としては金銭債権が想定されていました。しかし、従来より判例は債権者の債務者に対する登記移転請求権を保全するため債務者の第三債務者に対する登記移転請求権への債権者代位権の行使を認めてきました。つまり、改正民法はこの債権者代位権の転用を明文化したものです。

6.従来、判例、通説では、裁判上の代位に関する手続規定(非訟事件手続法第88条第2項及び同条第3項)などを根拠に、債権者が代位権行使を債務者に通知するか、債務者がこれを知った後は、債務者はその権利の処分をできなくなるとしていました。改正民法はこれを変更し、代位権の行使があっても債務者は、自ら第三債務者から取り立てをすることを妨げられず、第三債務者も債務者に履行できることとしました。したがって、債務者からそのような権限を奪うためには、仮差押などの措置を取る必要があります。


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