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連載“改正民法”

−第8回「解除制度」

□ 2020(令和2)年4月1日より、改正民法が施行されます(「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」、平成29年5月26日成立、同年6月2日公布)。
 現在の民法(債権関係)は1896(明治29)年に制定されました。債権法は取引社会を支える法的な基礎であるにも関わらず、約120年もの間、ほとんど改正がなされていません。
 今回の改正は、社会・経済の変化への対応を図り、国民一般に分かり易いものとするために、実務で通用している基本的なルールを明文化したものです。
 今回は「解除制度」について、解説します。

□ 重要ポイント
・解除制度の趣旨の変更、すなわち、解除とは債権者を契約の拘束力から解放するための制度。
・解除原因が軽微な場合は解除できない。
・無催告解除の範囲を明文化。
・解除要件から「債務者の帰責性」が不要となった。
・債権者に帰責事由がある場合は解除できない。

□ 解 説
・従来、民法における解除制度は、債務者に対して債務不履行の責任(損害賠償請求等)を追及するための制度であるとと考えられていました。しかし、改正民法では、解除とは債権者を契約の拘束力から解放するための制度であると考えられています。したがって、解除権者による解除権の行使を認める方向に解釈することになります。例えば、解除の要件として債務者の帰責性が不要になり、また、無催告解除が許容される範囲が明文化されました。

1.当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない(改正民法第541条)。
→ 旧民法541条を維持した上で、これまでの判例法理に基づき、不履行の部分が僅かである場合や契約目的を達成するために必須とはいえない附随的な義務の不履行等の軽微な義務違反である場合は解除原因とはならないとする但書を追加しています。

2.次に掲げる場合には、債権者は、上記「1」の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる(改正民法第542条第1項)。
 一 債務の履行が不能であるとき。
 二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
 三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
 四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
 五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
→ 「一〜四」は旧民法542条と同じ規定です。「一」は全部の履行不能の場合、「二」は債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合、「三」は一部の不能か債務者が一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合に残存する部分のみでは契約をした目的を達することが出来ない場合、「四」は定期行為の履行期途過の場合に無催告解除を認めたものです。そして、「五」は催告をしても契約をした目的を達するに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるときには、債権者に対して、解除の前提として催告を要求することが無意味であることから規定されました。

3.次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる(改正民法第542条第2項)。
 一 債務の一部の履行が不能であるとき。
 二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
→ 一部の履行不能や一部の履行拒絶を理由とする一部の無催告解除を認めたものです。

4.債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前条による契約の解除をすることができない(改正民法第543条)。
→ 債務不履行が債権者の責に帰すべき事由による場合にまで契約解除によって契約の拘束から解放するのは相当ではありません。そこで、このような場合には、催告解除も無催告解除も認められません。

5.(改正民法第545条)
@当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。但し、第三者の権利を害することはできない。
A前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
B第1項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。
C解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。
→ @とAは旧民法545条の@及びAと、Cは旧民法545条Bと同じ規定です。Bは解除に伴って金銭以外の物を返還する場合に、それと矛盾しない形で果実の返還義務を定めています。

6.解除権を有する者が故意若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅する。ただし、解除権を有する者がその解除権を有することを知らなかったときは、この限りでない(改正民法第548条)。

→ 旧民法548条@の「行為」とは「故意」の意味に解されていたことを明文化したものです。
但書を設けた趣旨は、本条によって解除権を消滅させる趣旨を解除権の放棄と捉え、その場合には、解除権を有することを知っていなければならないとするものです。
 なお、旧民法548条Aは、@から当然に導かれる結論ですので削除されました。


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