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連載“改正民法”

−第4回「代理」

□ 2020(令和2)年4月1日より、改正民法が施行されます(「民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)」、平成29年5月26日成立、同年6月2日公布)。
 現在の民法(債権関係)は1896(明治29)年に制定されました。債権法は取引社会を支える法的な基礎であるにも関わらず、約120年もの間、ほとんど改正がなされていません。
 今回の改正は、社会・経済の変化への対応を図り、国民一般に分かり易いものとするために、実務で通用している基本的なルールを明文化したものです。
 今回は「代理」(民法101条〜107条)について、解説します。

□ 重要ポイント
1.能動代理と受動代理を区別して、代理行為の瑕疵(意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫等)については能動代理のみ、代理行為の瑕疵となる。また、本人が特定の法律行為を代理人に委託した場合の有効性に関する特則設置。
2.制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、行為能力の制限、または、当該他の制限行為能力者本人も取り消すことができる。
3.復代理人を選任した任意代理人は債務不履行責任の一般原則に従って、その責任を負う。
4.代理人が代理権を濫用した場合、その行為の相手方がその目的を知り、または、知ることができたときは、その行為は無権代理行為とみなす。
5.自己契約・双方代理・その他の利益相反行為については、無権代理行為とみなされる。
6.表見代理に関する規定(民法109条と110条,110条と112条)を重畳的に適用し、本人がその責任を負う。
7.無権代理人が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったときでも、無権代理人が自己に代理権がないことを知っていたときは、無権代理人はその責任を負う。

□ 解 説
 ・「代理」とは、本人以外の人が、本人の代わりに意思表示をすることで、その意思表示による法律効果を本人に生じさせることです(現民法第99条@)。例えば、不動産の売買契約において、買主から基本代理権を与えられた者が、買主の代理人であることを相手方である売り主に告げ、売主と売買契約を締結する行為などです。意思表示を行うのは代理人ですが、所有権の移転等の売買契約の効果は売主本人に帰属します。

1.代理行為の瑕疵
(1)能動代理と受動代理の区別と代理行為の瑕疵  現行法上、代理行為の瑕疵の有無は「代理人について決するものとする。」と規定されています(民法101条@)。しかし、この規定は、瑕疵のある意思表示を代理人がした場合(能動代理)と相手方がした場合(受動代理)との区別が曖昧であり、多くの批判がありました。
 改正民法では、能動代理のみ代理行為の瑕疵となることを明確にしました(改正民法101条@)。例えば、代理人が相手方に対して詐欺をした場合、相手方の意思表示に関しては代理行為の瑕疵に関する民法101条@は適用されない、すなわち、詐欺取消に関する民法96条@が適用されます。また、相手方の代理人に対する意思表示について、その効力が悪意・有過失により影響を受ける場合は、受動代理についてのみ代理行為の瑕疵になります(改正民法101条A)。同様に、代理人に対して意思表示をした相手方に心裡留保があった場合も心裡留保について本人が善意であっても代理人が悪意であれば当該意思表示は無効となります。
(2)本人が特定の法律行為を代理人に委託した場合  現行法上、「特定の法律行為をすることを委託された場合において、代理人が本人の指図に従ってその行為をしたときは、本人は自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても同様とする。」と規定されています(民法101条A)。しかし、適用要件が厳格であり、本人の主観を考慮すべきであるとの批判がありました。
 そこで、改正法では、代理行為の有効性に関して、本人が知っていた事情に関する部分と本人が過失によって知らなかった事情に関する部分とに分けて整理し、代理人が行った法律行為が本人の指図に従ったものであったかどうかにかかわらず、本人が自ら知っていた事情については代理人が知らなかったことを主張することができない旨の規定を新設しました(改正民法101条B)。

2.制限行為能力者の代理行為
・法律行為を一人で有効に行うための能力を「行為能力」といい、「行為能力」を制限されている人を「制限行為能力者」といいます。未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人(現民法第20条C)がこれに該当します。
 現行民法では「制限行為能力者でも代理人になることができる」と規定しているのに対して、改正民法では「制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りでない。」と規定し、一定の場合に取消しを認めています(改正民法102条)。ここで、「他の制限行為能力者」とは、代理人だけではなく、本人も制限行為能力者である場合を指します(同条但書)。
 取消が許されるのは、他の制限行為能力者の「法定代理人」として行った法律行為に限定されています。

3.代理人と復代理人の責任
・「復代理人」とは、代理人から選任された代理人のことです。現行法上、復代理人を選任する要件として、本人の許諾か、やむを得ない事由が必要とされています(現行民法104条)。その故、復代理人を選任した代理人の責任は軽減されています。即ち、復代理人が本人に損害を与えても、任意代理人は「復代理人の選任、監督に関する責任」を負うのみです。また、本人の指名に従って復代理人を選任した場合は、「不適任・不誠実であることを知りながら、本人にその旨を通知すること、復代理人を解任することを怠った場合」にのみ責任を負います。しかし、債務者が履行補助者を使用したときは、債務不履行一般の規定で処理されることと比較して、本人の同意や指名があれば、任意代理人の本人に対する債務不履行責任を一律に軽減する合理的な理由はありません。
 改正民法では、復代理人を選任した任意代理人の責任は制限されません。

4.代理権の濫用
・現行法上、代理権の濫用(:代理人が自己または第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をすること)に関する規定はありません。故に、代理権が濫用されたとしても、原則として、代理権の範囲内でされた行為であれば、その効果は本人に帰属します。しかし、例外として、判例は相手方がその代理人の意図を知り、または、知ることができたときは心裡留保に関する民法93条但書を類推適用し、その行為の効力は本人に及ばないとしていました。
 改正民法においては、代理人が自己または第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合、その行為の相手方がその目的を知り、または、知ることができたときは、その行為は無権代理行為とみなすとする規定を新設しました(改正民法107条)。
 なお,代理権が濫用された事案において、心裡留保に関する民法93条但書の規定が類推適用されると、その代理行為は無効になり、本人が追認することはできません(民法ll9条)。改正民法では,その代理行為を無権代理行為とみなしており、本人が追認することができます(民法ll3条1項,ll6条本文)。

5.自己契約・双方代理・その他の利益相反行為
・自己契約とは、自分が当事者となる契約において相手方の代理人となることです。また、双方代理とは、当事者双方の代理人となることです。
 現行民法には自己契約及び双方代理の効果に関する規定がありません。
 改正民法では、その代理行為は「無権代理」として無効となることとされています。また、実質的な利益相反行為も禁止されました(改正民法108条A)。

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