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 LN00642 <ネットワーク社会と戦略法務シリーズ> 電子契約法 −1.概要−
■ <事例>インターネットのショッピングモールで書籍を購入しました。キャンセルボタンをクリックしようと思ったところ、誤って「送信」ボタンをクリックしたようです。3日後に、同じ本が11冊も届きました。販売業者は「利用規約には注文の取り消しはできない旨の規定があるので、返品には応じられない」と言って受け付けてくれません。誤操作をした私にも責任はあると思うのですが、対応方法はないものでしょうか。

 近時、インターネットにおけるEC(=Electric Commerce:電子商取引)が活発になっています。IPO(株式公開)をした企業も多数あります。反面、EC関連のトラブルは、10年前の100倍強に急増しています。
 このような状況下で成立した法律があります。「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律(略称「電子契約法」)です(2001(平成13)年施行)。全4条から構成される法律です。
 本件のような場合は、そもそも売買契約が成立しておらず、商品を返還することができます。
 以下では、電子契約法について説明します。

1.法律制定の目的
インターネット市場における取引ルールを明確化し、国際的なインターネット市場におけるルールとの調和を図り、ネット上の消費者トラブルへの有効な救済措置の整備を行うことを目的としています。特に、一般の取引と比較し、以下のような電子契の特徴を踏まえて、取引の基本的なルールを定め、民法の特例措置を定めたものです。
これは、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(電子商取引等の促進)や2001(平成13)年1月22日のe-Japan戦略高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部決定)、2001(平成13)年3月29日のe-Japan重点計画(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部決定)に沿って行われたものです。

2.電子消費者契約とは(電子契約法第3条)
本法の対象となる電子消費者契約とは、電子的な方法(第2条3項)により締結された電子契約のうち、BtoC(事業者と消費者間)の取引であり、電子計算機の映像面を介して締結されるものを言います。したがって、インターネットを利用していなくても、専用端末・専用線をつかった電子契約であれば対象となりますし、内部に中央演算処理装置(CPU)を有している機器であれば、パソコンや携帯電話、コンビニの端末を使った場合も本法の適用を受けます。しかし、CtoC(消費者間)の取引であるオークションは対象外です。また、事業者が設定した申込用フォームに従って消費者が申込みを行う場合であり、消費者自ら申込み内容を自由に入力して送信するような通常の電子メールによる申込みは対象となりません。
このような取引は、BtoB(事業者間)の取引や電子的な方法によらないで契約を締結する場合に比べ、消費者が意図しない申込が生じやすく、また、操作ミスについては、事業者側が適切な確認措置を講ずることによって、容易にこれを防ぐことができる等、契約締結環境が異なります。そこで、BtoCの電子商取引について、民法の特例措置を講じることにしました。

3.法律の概要
 第1条には、「この法律は、消費者が行う電子消費者契約の要素に特定の錯誤があった場合及び隔地者間の契約において電子承諾通知を発する場合に関し民法(明治二十九年法律第八十九号)の特例を定めるものとする。」と規定しています。すなわち、次の2つの事項について、民法の原則に対する例外を定めています。
(1)消費者の契約無効の主張に対する事業者の重過失反証の制限−民法95条(錯誤)の特例
 ・ 従来は、事業者から、操作ミスが「重大な過失」にあたるので契約は有効に成立している、と主張することが可能でした。しかし、BtoCの電子契約では、消費者が申込みを行う前に、消費者の申込み内容などを確認する措置を事業者側が講じないと、要素の錯誤にあたる操作ミスによる消費者の申込みの意思表示は無効となります。
→ BtoCの電子商取引においては、消費者が操作ミスにより行った意図しない契約の申込みをすることが頻繁に起こります。すなわち、ウェブ(World Wide Web)を利用したいわゆる「インターネット通販」や、キオスク端末などの専用端末を用いて専用線を通じて取引を行うような形態の電子商取引では、通常は、事業者が設定した画面上で、消費者が申込みを行います。その際、消費者がマウスなどの機器の操作を誤って、意図しない申込みをしてしまうことが多々あります。
 この場合、民法95条(錯誤)の規定を活用して、消費者は「著しい不注意(重過失)」がない場合には、事業者に対して契約の無効を主張することができます。しかし、現在の民法では、事業者から、消費者に「重大な過失」がある場合には契約は有効であるとの主張ができることになっています。操作ミスによる意図しない申込みは、民法では、第95条に規定する「要素の錯誤」に該当します。要素の錯誤に該当する意思表示は原則無効となるとされています。しかし、その錯誤が重大な過失による場合まで意思表示をした者を保護する必要はありませんので、民法はそのような場合は、相手方から、その意思表示は有効であると主張することができるものとしています。結果、消費者に重過失があったと事業者から反証されてしまい、結局、契約が無効とならない場合が多いのです。そのため、BtoCの電子商取引においては、消費者に「重大な過失」があったか否かを巡ってトラブルが発生することになってしまいます。
 したがって、電子商取引における消費者の操作ミスの救済をするため、電子消費者契約に関しては、事業者が操作ミスを防止するための措置を講じていない場合には、たとえ消費者に重過失があったとしても、操作ミスにより行った意図しない契約を無効とすることができるようにしました(民法95条の特例措置)。すなわち、BtoCの電子商取引において、事業者側がパソコン等の画面上に申込み手続きを設定するような契約については、事業者側が、消費者の申込み内容などの意思を確認するための適切な措置を設けていない場合には、原則として、操作ミスによる契約を無効とすることとしました。具体的には、そのような場合は、民法第95条の但書が適用されなくなります。

(2)電子商取引における契約の成立時期の明確化−民法526条 第1項(隔地者間の契約成立時期)の転換(発信主義から到達主義への転換)
 ・ 従来は、承諾の通知が“発信”された時に契約は成立していました。しかし、電子契約は、承諾の通知が申込者に“到達”した時に成立することになります。
→ 隔地者間の契約の成立時期は、郵便という時間のかかる手段を前提としているため、迅速な契約の成立を図る観点から、契約を承諾する者が承諾の通知を発した時点とされています(発信主義−民法第526条 第1項)。すなわち、民法では、申込みに対する応答が直ちになされる対話者間の契約以外の隔地者間の契約については、承諾の通知が発信された時点を契約の成立時点とするルール(発信主義)が採られています(意思表示一般の場合は、相手方に通知が到達したときに効力が生じる(到達主義)ものとされています。)。このルールによれば、一度承諾の通知が発信されてしまえば、仮に承諾の通知が途中で紛失するなどしてその通知が申込みをした人に到達しなくても、契約は成立したことになります。
 このルールは、民法が立法された当時は隔地者間においては承諾の通知が相手方に到達するまでにある程度の時間がかかるという技術的な制約を前提にした上で、承諾の通知が発信されれば、その時点で契約が成立することとし、迅速な取引の成立を図ることとしたものであると言われています。この結果、承諾の通知が着かない場合などのリスクを申込者が負担することになっています。
しかしながら、インターネット等の電子的な方法を用いて承諾の通知を発する場合には、瞬時に意思表示が到達するため、その契約成立時期を、承諾の通知が到達した時点へと変更することにしたものです(到達主義への転換)。電子メールが不着の場合、発信主義のルールによると、承諾の通知の発信時点で契約が成立していると扱われるので、消費者がリスクを負うことになります。到達主義ルールに転換すると、承諾の通知が到達しない限り、契約は不成立なので、承諾の通知の不着のリスクは、逆に事業者が負うことになります。
 電子契約法施行後は、インターネットなどの電子的な方法を用いて承諾の通知を発する場合には、瞬時に相手方に意思表示が到達するため、発信主義を維持する前提を欠くものと考えられます。そこで、そのような場合については、契約成立時期を、承諾の通知が到達した時点へと変更することにしました(到達主義への転換)。

3.国際的な動向
(1)米国BtoC取引において、事業者が確認手段を提供していない場合には、消費者が契約の無効を主張することが可能となっています(UETA(統一電子取引法:23州で採択済))。また、英仏独BtoC取引において、事業者が確認手段を提供していない場合には、操作ミスをした消費者は契約に拘束されないとされています。

(2)大陸法の国々は、元来到達主義をとっています。英米法の国々は、元来発信主義でしたが、電子契約については到達主義に転換しました。国際的に電子契約は到達主義となっています。なお、我が国でも約8割の企業が約款で到達主義を採用しています。

【条 文】
<民法第95条> 意思表示ハ法律行為ノ要素ニ錯誤アリタルトキハ無効トス。但表意者ニ重大ナル過失アリタルトキハ表意者自ラ其無効ヲ主張スルコトヲ得ス
<民法第526条> 第1項 隔地者間ノ契約ハ承諾ノ通知ヲ発シタル時ニ成立ス。
<民法第527条> 第1項 申込ノ取消ノ通知カ承諾ノ通知ヲ発シタル後ニ到達シタルモ通常ノ場合ニ於テハ其前ニ到達スヘカリシ時ニ発送シタルモノナルコトヲ知リ得ヘキトキハ承諾者ハ遅滞ナク申込者ニ対シテ其延著ノ通知ヲ発スルコトヲ要ス。
第2項 承諾者カ前項ノ通知ヲ怠リタルトキハ契約ハ成立セサリシモノト看做ス。

以 上